16、
正月三が日もすぐに過ぎてしまい、早くも五日を迎えていた。
「忘れ物は無いかい」
「大丈夫よ」
由美が滋賀へ帰ることになり、妻や明代も一緒に倉吉駅まで送った。
「もう帰っちゃうのね」
明代が寂しそうにしていた。
「一月の試験が済んだら二月は休みになるわ。来月になったらまた帰ってくるわよ」
「早く二月にならないかな」
「一ヶ月なんかすぐよ」
倉吉駅に着くと、特急の切符を買う人の列ができていた。
「由美、学割」
「あ、そうだ」
由美は、財布の中に入れていた学割を取り出した。
乗車券と特急券を購入して改札口を出た。
しばらく待っていると、特急列車が到着して次々と乗客が中に入った。
「じゃあ、来月また帰ってきます」
「待っているよ」
たくさん人が並んでいたが、始発なので座ることはできたようだ。
間もなくして出発を知らせるベルが鳴り、特急列車は次第に動き出した。
由美は手前の窓際で手を振っていたがすぐに見えなくなってしまった。
「お姉ちゃん、行っちゃったね」
「さあ、帰ろうか」
「ねえお母さん、ちょっと本屋さんに寄ろうよ」
「そうね。そうしようか」
妻と明代が並んで歩いている。
その後を行く父の頭の中には、早くもまた万葉集や古代史のことが巡っていた。
『志賀島や大牟田には、まだ調べたいことが残っている。熊野大社や出雲大社についても、まだ何か隠された秘密がありそうだ』
父は、中国や朝鮮半島の歴史や言語についても調べたいと思っているのだが、今年もまだまだ万葉集や古代史から離れられそうにも無かった。
夜になり、由美から父の携帯にメールが入った。
{夕方、無事アパートに着きました。また一人暮らしに戻ると思うと少し寂しいけど、これからしばらくは大変です。試験が始まるし、コーラスやバイトもあるのでそんなことを言ってもいられません。今回、レポートを書くに当たって、いろんな所に行って歴史を学ぶことが出来ました。歴史は、ただ教えられるだけでなく、足を運んで自分で調べるということが本当に大切なことだと分かりました。過去の歴史を知ることで、現在も見えて来るということも知りました。また引き続き調べてみようと思っています}
父は、由美と一緒にまわって本当に良かったと思った。
しかし、知り得たのはほんの一部で、万葉集も古代史もまだまだ奥が深そうだ。
父は、由美に返信メールを送った。
{家族そろっての正月もあっという間に過ぎてしまったね。二月に帰って来るのを楽しみにしているよ。新年早々から『熊野大社、意宇地方、出雲王朝』とまた大きな謎が生まれた。近畿、北九州、山陰と次から次と謎が尽きることがない。都合がつくようならぜひまた一緒に行こう。では元気で、風邪をひかないように}
父は、側に置いていた万葉集の資料を再び手に取った。
次には、どんな隠されたメッセージが見つかるだろうかと期待しながら。
―完
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